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ぶっくさーばんと! 〜沙夜子のおつかい〜

by 蔵月古書店

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「これって、まさか……」
 ──遠野霊異記が私を護ってくれた!?
 頭を覆ったのは偶然だったが、魔物を封じ、契約する者の詞に応じて魔物を操る本は、飛びかかってきた餓鬼を弾くように跳ね退けたのだった。
 その威力は相当なものだったようで、倒れた餓鬼は目を回しており起き上がる気配は無い。
 状況は把握できたものの頭がそれを飲み込めていなくて、私はしばらく倒れた餓鬼の姿を見ていた。しかし、まだ危機は終わっていないのだと思い返して、遠野霊異記を開いてさっき目を通した詞を読み上げる。
「門を護りし三つ首の犬よ、勇ましき顎は獅子を噛み砕き滴る涎で死に至らせん。天に唸れ地を掻き毟る、主には忠誠、主に反目する輩に牙の制裁。怪留戸護巣に叶う者は無し。門を護りし三つ首の犬よ、勇ましき顎は獅子を噛み砕き滴る涎で死に至らせん――」
 ――お願い、出てきて。
 その時、私と餓鬼の間に漆黒の闇が生まれる。
 その闇から、うなり声が聞こえたかと思うと、のっそりと首が三つある真っ黒な犬がはい出てきた。
 ──やった。私、ひとりでできた。
 よろこびの声をあげようとしたが、途中で詞を止めるわけにはいかなかった。
「門を護りし三つ首の犬よ!」
 『地獄の番犬』は、振り返って私の方をちらりと見てうなずくと、地面に転がっている餓鬼に向かって牙を剥いたのだった。

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