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ぶっくさーばんと! 〜花魄(かはく)〜

by 蔵月古書店

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「客か?」
 それは男の声だった。落ち着いた青年の声。
 その声に振り返った彼女はその青年の姿を見て息を飲む。
 西洋物の背広姿。政治家や政府役員などが着ている姿は見るが、まだこの街中でその服装は珍しい。そして紐状のループタイなどその服装だけでも充分に目を引くだろう。
 ただそれ以上に青年の容姿は人の目を惹く。
 まるで作られたように整えられた容姿だったから。
 整えられ、そのように作られた美しい人形。誰もが彼の姿を見て感嘆の声を漏らすのだろう。
 ただ彼女には青年が人形そのものに見えていたのだ。血と、そして感情のカケラを感じさせない表情。どこか機械的な雰囲気に彼女は青年に人を感じていなかった。
 どこか曇ったような瞳が彼女を見詰める。
「あ、あの、私……」
「……すまない」
「……はい?」
「人が入ってきていたのは分かっていたんだが、店に出るのは止められているからな」
「あの、ここの店員さんですか?」
「ああ、そんなものだ」
 青年は言いながら、彼女へと近付く。
「俺が取る。そこをどいてくれ」
「え、あ、はい」
 彼女は頷き、踏み台から降りる。
 そして入れ替わるように青年が踏み台の上に乗る。そして手を伸ばし一冊の本を手に取るのだが……

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