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ぶっくさーばんと! 〜花魄(かはく)〜

by 蔵月古書店

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 その時だった。
 まただ。甘い花のにおい。においは蜜のようにねっとりと質量を持つようだった。
 黒鵺は彼女の姿を見詰める。何かを探すように、注意深く。
「あの……ど、どうしたんです?」
 もちろん彼女自身は何故自分が眼光鋭く睨まれるのか全く分からないから、戸惑ってしまう。
 その黒鵺の視線に炙り出されるようだった。
 彼女の肩に掛かる髪。その髪を掻き分けるように、白く美しい女性の顔が覗く。
 そして黒鵺を観察している。
 それは彼女の肩に人が乗っているのだろう。まるで人形のように、掌に乗ってしまいそうな大きさだった。
 そう、それこそ『花魄』と呼ばれる物の怪だった。
 中国に伝わる木の精。何人もの人間がその木に吊るされ命を失った時、その人間たちの情念は木に宿り、やがて花魄が生まれる。
 人が首を吊る時、それは殆どが自殺と処刑である。その時の人の情念は無念、憎悪、恐怖など負の感情。そこから生まれる花魄は人に害を成す。
 生者を、自分達と同じ負の世界、つまり死の世界へと引き込もうとするのだ。

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