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ぶっくさーばんと! 〜花魄(かはく)〜

by 蔵月古書店

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「ん?」
「いえ、なんでも」
 ここの古本にはシオリような紙が挟まれており、そこに金額が記されているはず。しかし先ほど本を落としたせいだろう。それが挟まれていない。
 やがて青年は本を置き、金額を告げる。
「え?それだけですか?」
「ああ。ここにあるものはみな古本だ。定価以上はしないだろう」
「え、でも、これ」
 彼女にしてみれば嬉しい話なのだろうけど、彼女はこれが希少本である事を知ってた。
 それをこんな値段で……
「いや。迷惑も掛けた。それで良い」
「あ、はい……ありがとうございます」
 彼女が背を向けた時だった。その髪が左右に揺れる。
 そして微かな甘いにおい。
 柔らかなそれは、花のにおい。それを青年は感じていた。
「おい」
 だから青年は彼女を引き止める。
「はい?」
「本の事で何かあったらまた来れば良い」
 言葉をそのまま受け取るなら『お客としてまたの来店を』という意味だろう。
 だが青年はそんな意味で言ったつもりではない。もっと別の意味があるのだが、それが彼女に伝わるはずも無く。
「はい。分かりました」
 彼女はそのまま言葉通りに受け取るのだった。

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